ひとつのサービスで5000日間デザイナーをやってみて
林大輔です。楽天トラベルでプロダクトデザイナーをしています。
私が楽天に入社して5000日という歳月が経過しました(2004/08/16〜2018/04/24)。入社して以来ずっと楽天トラベルでデザイナーとして携わっています。
せっかくの区切りでもあるので、キャリアという視点で5000日を振り返ってみたいと思います。
・・・って振り返ってみたら、長い文章になってしまったので、若いデザイナーのみなさんへのメッセージだけ、先に持ってきました。
若いデザイナーのみなさんへ
1.ちょっとしたことでスイッチは入る。少しでもいいから動いていこう!
向上心がないとき、たまたま参加したセミナーがきっかけで、私の中のスイッチが入ったりしました。積極的じゃなくても、私利私欲にまみれててもいいから、なんか動いてみませんか?
2.どんどんアウトプットしていこう!
今はtwitterやnote、Youtubeなど、アウトプットの手段が増えてきています。ある程度のペースで続けることで、世界が広がるかもしれません。アウトプットし”続ける”のも、一つの能力です。
3.コアとなるスキル・キャリアは持っておこう!
フルスタックデザイナーを否定するつもりはありません。でも環境や状況で求められる役割は変わってきます。ひとつだけでも、誰にも負けない・世界で戦えるスキルは身につけ、常に磨いていくことをオススメします。
・・・この3つに関する話などを、私の歩んできたキャリアに沿って書きました(↓)。あっ、これ退職エントリーじゃありませんよw
不満はなかったけど、向上心がなかった若かりし日々
新卒で入った制作会社を辞めて、第二新卒的に入社したのが24歳のとき。求められた役割は、いわゆるWeb担当者という感じでした。サイトの更新、キャンペーンページの作成、バナーの作成などなど。
制作会社時代に培ったコーダーとしてのスキル(当時はtableコーディングでしたが)を活かしながら、制作会社時代にはあまりできなかったデザインの仕事もでき、満足していました。
給与面も多少改善されたり、人生初のボーナスをもらえたり。なので、会社にそこまで不満はありませんでした。
一方で、向上心がなかったことを記憶しています。何かを学ばなければ仕事ができないという状況でもなく、上司もデザイナーではないのでテクニカルな要求はされませんでした(一方で工数・案件数・CVRなどの数字的な目標は求められました)。
「いまのスキルが活かせて、好きな野球が見られて、それなりに喰っていければいいや」
マジでこんなことを思っていました。
私にスイッチを入れてくれた、ひとつのセミナー
向上心がないなかでも、多くのWebデザインに関するセミナーには参加していました。当時から無料や、数千円程度で参加できるセミナーが多かったと思います。
ただそのときセミナーに参加していたのは、何かを学びたいからではなく、セミナーに参加することが目的になっていました。
「セミナーに参加するだけで、勉強する気になれるなぁ〜」
しかしひとつのセミナーのセッションが私の意識を変えてくれました。それが26歳になる直前に受けた「Web標準の日 (2006/07/15)」というイベント、その中のアクセシビリティに関するセッションでした。
なぜアクセシビリティが当時の私の心に刺さったのか、本当に不思議です。法律的なことも好きだったのが、影響しているのかな?
これをきっかけに少しずつではありますが、アクセシビリティに関することを学んでいくようになりました。
事業の中で提案できる機会があったとき、アクセシビリティに関する提案をしました。「楽天トラベルはもっとアクセシビリティを考えた方がいい!」的な。当時の事業長から褒められたことは今でも覚えています。
「林は仕事している態度は悪いが、こういう提案をしてきたよ!」
なぜ一度落とすのさ?! とも思いつつ、26歳の若ゾーにはすごく嬉しいコトバでした。ちなみに仕事中の姿勢はものすごく悪かったですw
アクセシビリティをきっかけに、いろいろなジャンルの勉強をするようになりました。何かのスイッチが入った気がしています。
そのあたりからでしょうか、私の仕事の内容も、エンジニアと一緒に進めていく案件(検索結果・商品ページのデザインなど)、今でいうとプロダクトデザイン的なものにシフトしていきました。
自分の名前を売りたい!ブログでアウトプットする日々
2007年に自分のブログを開設しました。勉強したこと、参加したセミナーのレポート、読んだ本の書評などいろいろ書きました。そしてブログを書いていくうちに、私にはひとつの目標ができました。
「20代のうちに自分の名前でセミナーに登壇するか、雑誌に寄稿する!」
自己顕示欲は強い方なので、こんな目標を立てたと思うのですが。
アウトプットするためにインプットする。質より量!という感じで、400日間続けてブログを更新した時期もありました。
そんななかブログに書いた「Fireworksで使えるテクスチャ素材作ったので、無料でダウンロードできます」的な記事がちょっとだけバズり、これをきっかけにセミナーに登壇する機会をいただきました。
「CSS Nite in Ginza, Vol.35 (2009/5/21)」、私が28歳のときの出来事でした。15分ほどのセッションでしたが、死ぬほど緊張したことを覚えています。有楽町駅から会場のアップルストア銀座まで「オェェ」ってなりながら歩いたことも(笑)
さらにはじめてのセミナー登壇から2ヵ月後、出版社から執筆依頼のメールをいただきました。これをきっかけに「ガレリアCSS (2010/02/24)」という書籍を執筆しましたが、出版社の方も私のブログ見て私に連絡を取ってくれたそうです。ホント、ブログをやっていて良かったと思いました。
20代でセミナー登壇 or 書籍執筆という目標を、and で達成できました。
目標を持って何かに取り組むこと、手探りでもいいから何かしら行動をすること、そしてアウトプットすることの大切さを、30歳になる前に学びました。
会社の外にキャリアの未来を求めた時期
先ほどのくだりでは会社の話が一切出てきていませんね(汗)。仕事に大きな不満はありませんでしたが、正直こんなことを思っていました。
「会社の世話になんてなりたくねぇ!」
自分が部署で一番勉強している!という感覚、それに対し評価してもらえていない!という不満。そして、事業の中にデザイナーの先輩という存在がおらず、キャリアパスの先が見えなかったのもあったかもしれません。
・・・まぁ、とがってました。
ただ、会社に頼らず自分の名前売ってやるぜ!くらいの気持ちで行動していたことは、今になっても良かったと思っています。(会社の中での振舞いアレとして)
事業の成長とともに分業化されていく役割
「デザインもコーディングもやる。上流工程のプロデューサー的なことも、サイト解析も、SNSの更新も」・・・数年前まではホント何でもやっていました。そして、色々なことをやることにキャリアの価値を見出していました。
しかし、事業が拡大し人が増えるにつれ、それぞれの職種に専門性が求められていきます。私たちもここ数年で分業化の流れが進んでいきました。
SNSはマーケティングの部署が担当し、プロダクトマネージャーの部署が新設され上流工程はやらなくなり・・・そして昨年フロントエンドエンジニア専門の部署ができたタイミングで、私たちの部署はプロダクトデザインに特化したチームになりました。
スキルの掛け合わせ、色々なことをやることに価値を見出していた私にとって、武器を奪われていく感覚も正直ありました。デザインだけを求められる今の状況は、正直苦しいこともありますが・・・はい、頑張ります。
スタートアップへの注目が高まる中、フルスタックデザイナーとしてのキャリアパスが良しとする傾向もあります。
ただ、求められることは事業の成長によって変わるということもあります。環境を変えるのもひとつですが、武器が奪われたとしても戦っていけるコアとなるスキルは持っておくことをオススメします。
デザイナー出身のマネージャーとして
ここ3年弱、プロダクトデザインチームのマネージャーをしています。 もちろん今でもデザイナーとして手を動かしていますが、業務アサイン、進行管理、品質管理、チームビルディング、評価、採用・・・マネージメントとしての仕事もあります。大変ですが、楽しくやっています。
チームには7名のデザイナーがいます。お客様にいかに最高の経験を提供できるかメンバーと一緒に考えています。7名もいれば、様々なエスカレーションもあります。ただ大抵のことは自分がやってきたことなんですよね。
「あっ、同じような事、むかしオレ言ってたよな〜」
そう、まさにブーメラン。何も言えないです。だから耐えられるところもあるという部分もあります。というか、昔の上司の方々大変だったなぁ〜と思います。ホント、すみませんでしたm(_ _)m
一方で、事業の中のデザイナーとして、むかし私が感じられなかった部分は、しっかりメンバーに提供していきたいと思っています。
例えばテクニカルなアドバイスだったり、デザイナーとしてのキャリアパスを示すことだったり。事業のなかでも、デザイナーとして誇りが持てるように、デザイナー出身のマネージャーとしてアドバイスしていきます。
5000日間も在籍していれば、酸いも甘いも、楽しいことも辛いこともありました。24歳の若ゾーも、もう37歳ですからね。
昔は「会社の世話にならねぇ。自分の名前を売っていく!」と思っていましたが、今は少し違う意識で働いています。
「楽天トラベルのデザイナーとして、世の中にインパクトを残す!」
楽天トラベルが世界で戦えるサービスになるべく、引き続きデザイナーとして活動してまいります。これからもよろしくお願いいたします。